多肉植物の遮光方法と効果、遮光ネットの種類、選び方や使い方を解説しています。
遮光とは
遮光とは、植物にとって強すぎる太陽光を遮ることをいいます。
多肉植物の中には強い日差しを好まないもの、直射日光でヤケド(葉ヤケ・日焼け)する種類がありますが、そのようなグループを夏でも元気に栽培するために欠かせないものです。
なぜ必要
多肉植物は種類によって原産地が異なり、また原生地の状況が様々あります。例えば他の植物や岩陰に生えて直射日光が当たらない種類や、森林性の植物で森の影で育つもの、体のほとんどが地面に埋まっていて直射日光に弱いものなどがあります。
自生地で地面に埋まって育つサボテン(ロフォフォラ属「翠冠玉」(スイカンギョク))
そのような種類を日差しの強い日本の夏に育てるには、日よけが欠かせません。種類によっては夏だけでなく、春や秋の穏やかな日差しさえ強すぎるものがあります。(ハオルチアなど)そのような場合は、冬以外はずっと遮光を続ける場合もあります。
もちろん多肉植物は日差しに弱いグループばかりではありません。遮るものがなく日照時間も日本より長く、一日中直射日光にさらされてもなんともない種類もあります。そのような種類は、遮光なし(無遮光)で育てます。
遮光ネットが便利
日よけするのには「遮光ネット」がとても便利です。
遮光ネットには色や遮光できる量(遮光率)が色々用意されていて、細かい調節をすることができます。遮光ネットは「寒冷紗」「遮光シート」などと呼ばれることもあります。
いずれにしても異なる色や遮光率のシートを季節ごとに貼り替えることで、多肉植物にとって快適な環境を作ることができます。
すだれや不織布で代用できる?
日よけするためのグッズは、遮光ネットだけではありません。不織布のシートやすだれ、よしず、新聞紙、エアコンの室外機カバーなど様々なものが代用できます。
特に不織布シートは実際に遮光ネットとして使われています。
ただ、夏は晴れの日ばかりではありません。風が強い日、雨の日、曇りの日など天候の悪い日もあります。そのような場合でも、使い勝手がよいものが望ましいです。
例えば新聞紙やよしずなどだと雨の日に撤去しないと濡れてしまいます。また風の強い日に飛ばされる可能性があります。また曇りの日や雨の日は遮光率を弱めたいこともあります。
そのような場合に、さっと一手間で付け外しができるのが、遮光ネット(遮光シート)なのです。
遮光ネットの効果
遮光ネットには大きく分けて2つの効果があります。
日よけ(葉ヤケを防ぐ)
まず第一が日よけ効果です。
日ざしが強いと多肉植物は日焼け・葉ヤケや溶ける現象を起こします。そこで遮光ネットを張ることで、22%なら22%、50%なら50%など、その遮光率での日よけができるようになります。
よく明るい日陰、半日陰という言葉が使われていますが、これは50%遮光ネットを張ったぐらいとされています。軒下や木陰などがなくても、50%遮光ネットを張れば、半日陰の環境が作れます。
実際の日なたと遮光率50%の環境はこの写真のような差があります。
温度の上昇を抑える
もう一つが温度の上昇を抑える効果です。
真夏直射日光下では、温度が55℃以上にもなることがあります。遮光ネットで日陰を作ることで、炎天下の暑さを緩和することができます。
近年猛暑が厳しくなっており、気温が40℃を超えることも珍しくなくなってきました。この40℃というのは実は日なたの温度ではなく、日陰の温度です。気温というのは実は百葉箱の中で測るもので、日の当たるところではこれより暑くなり、この点注意が必要です。
遮光ネットを張ることで、理論上は気温と同じ温度に下げることができます。しかしこれは理論上の話しで、実際には遮光ネットとビニールの保温効果が働いてしまい、簡易ビニール温室内は外気温よりは若干高くなります。
福岡市の実測値で、気温が37℃程度の時、簡易ビニール温室内を40~45℃程度です。この温度なら実際に多くの多肉植物の種類は耐えることができています。
デメリット
遮光ネットには日よけ効果と温度を下げる効果の2つのメリットがありますが、デメリットもあります。
それは風通しが悪くなってしまう点、保温効果が出てしまう点です。
まず簡易ビニール温室内の風通しが少し悪くなります。シート状のものを前面に掛けるので、その点は仕方ないですね。
また、家庭で使われる簡易ビニール温室に遮光ネットをかけた場合庫内の面積が小さいです。そのため熱がこもりやすく外気温よりやや温度が上がってしまいます。
遮光ネットの種類と選び方
家庭で利用できる遮光ネットはいくつかの種類があります。
黒
※Amazonから画像をお借りしています。
まず黒色のものです。黒色のものは光を遮る効果は高いですが、反面熱を吸収し高温になりやすいというデメリットがあります。遮光率が50%以上のものが多いので、日差しの強い夏場に使うことが多いです。
使用するときのコツはなるべく面積の大きな簡易ビニール温室に使うこと、ビニール付近には多肉植物を置かないことです。ビニール付近はかなり熱を持つので、鉢を遠ざけたほうがよいです。
白
次が白色のものです。白色のものは熱を吸収しにくく熱くなりにくいメリットがありますが、遮光率が低いというデメリットがあります。従って日差しの弱い春や秋などに黒色から張り替えて使う場合が多いです。
白の遮光ネットが使えるのは、(種類や地域にもよりますが)4月、10月頃です。5月以降は白色では遮光率が低すぎ、また9月までは黒やシルバーのものが安全です。
シルバー
最後がシルバー(銀色)のものです。シルバーのものは光を反射するため、黒色のものより圧倒的に熱がこもりにくいです。また白い色のものより遮光率が高く、夏場でも半日陰環境を作ることができます。
デメリットはやや値段が高めな点です。なぜか白や黒のものより値段が高く、2m × 6m のサイズで2,000円弱程度かかります。
価格が高いデメリットはありますが、暑くなりにくく遮光率も確保できるので、シルバーのものを用意できればそれが一番よいです。
選び方
季節によって遮光率は異なるため、遮光ネットはそれに応じて選びます。
エケベリアやグラプトペタルムなど通常の種類は、大体4~10月の期間で遮光が必要です。
ここで日差しの強さに応じて2種類を使い分けます。夏は黒かシルバーのものを場合によっては2枚重ねたり、春秋はシルバーのものか白のものを1枚か重ねて使います。
そのため黒かシルバーを1枚、白を1枚の2種類を選んで購入します。
遮光ネットは必要に応じて数枚重ねて遮光率を調節して使えるので、22%、40%、50%、60%、70%など専用を何枚も購入する必要はありません。
また長さについては、2m、4m、6m、10mなどがありますが、必要な長さを購入します。大きすぎるとカットしなくてはいけなくなり、小さすぎると貼り合わせる手間がかかってしまいます。
遮光率の計算方法
数枚重ねる場合は遮光率の計算が必要になりますが、計算にはやや注意が必要です。
50%遮光ネットを2枚重ねると、100%になるでしょうか?実際には75%となります。それは足し算ではなくかけ算で求めるためです。
50% + ((100% – 50% ) × 50%) =75%となります。
2枚で、22% + ((100% – 22% ) × 22%) = 39%となります。
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基本的な使い方
張り方
まず、一番日が当たる簡易ビニール温室の最上段(天井部)に張りましょう。
大きめの洗濯ばさみで、簡易ビニール温室のポールに留めます。前面にネットを掛ける必要がない時期は、後ろ側に全部垂らしておけば、カットする必要がなく無駄が出ません。
前面にも遮光ネットが必要になってきたら後ろに垂らしていた分を前に持ってきて垂らします。その時、前の分は風が入るようにゆったりめに洗濯ばさみで留めます。
ほつれないカット方法
遮光ネットは完全にちょうどよい大きさものはなく、若干切って調節しなければならない時があります。その場合、途中で切ると繊維がバラバラと落ちてほどけてしまうことがあります。
その場合、透明なビニールテープで裏表を貼り付けておくとほどけなくて済みます。
季節ごとの遮光率
※福岡市で行った一般的な強さの多肉植物(エケベリア、クラッスラなど)の例です。
春(4~5月)
春(4~5月)はまだ涼しく遮光ネットなどいらないと考えがちですが、実は紫外線量は6月をピークに高まっています。
4月は簡易ビニール温室の上段のみ掛けていて、前面はまだ掛けていません。側面(東側、西側)は無遮光です。
しかし5月に入ると気温も高くなり、前の面も遮光が必要になってくるため、前のほうに垂れさせます。最上段は2枚重ねにして遮光率を高めます。側面(東側、西側)は無遮光です。
夏(6~9月)
夏(6~9月)は一番日差しが強い時期で遮光が必須となります。
6月は雨天が続きますが、晴れ間は強光なので最上段は特に気をつけます。しかし太陽の高度が上がり全面から日差しは入らなくなるため、前面は外しても大丈夫です。
7月と8月は一番直射日光が強くなります。紫外線量は6月がピークですが、7、8月は熱エネルギーが強くまた太陽が傾き日が差し込み始めるので、7月末には前面の遮光を始めます。8月はさらに奥まで日が差し込むため、注意します。この場合は50%では心配で60%程度遮光するのが安心です。
9月もまだまだ日差しが強く遮光ネットが外せません。西日が強くなり、西側にも遮光ネットを張り始めます。
秋(10月)
10月も意外と太陽光線は強く、前からもしっかり差し込むので必ず遮光します。
60%は必要ありませんが、22%などでは全然足りず色々な種類で葉ヤケを起こします。22%ネットしかないのであれば、2~3枚重ねた方がよいです。
書籍などには10月は遮光が不要と書いてある場合もありますが、10月上旬まで少なくとも福岡では40%程度はカットしたいところです。
冬(11~3月)無遮光
11月の始めはほとんど遮光がいらなくなります。
心配な場合は上旬のみ22%を薄くかけておきますが過保護は禁物です。11月中旬からは完全に無遮光で大丈夫です。
12月~1月は日差しが弱く、日照時間も一番短くなります。健康な生長のためにはむしろしっかり日に当てることが推奨されます。
2月に入ると日差しが強くなったのが感じられます。それでもまだまだ遮光は不要です。
3月になると室内に退避しておいた多肉植物を外に出すことがあると思います。その場合は、3月であっても外の強い日差しに慣らせるため、22%程度の遮光をしておいた方が安全です。ずっと戸外に出していた種類はそのまま日に当てて問題ありません。
細かい調整と使うコツ
①天井部は早めに
天井部は一番日が当たるので、一番早く遮光しましょう。寒冷地以外では4月上旬から日差しがかなり強くなりますので、50%遮光ネットを張ります。5月も下旬になると50%ではやや心配になりますので、2枚重ねにして75%を保ちます。
②9~10月は西日に注意
9~10月は太陽が傾き西日が強くなってきます。西日が当たる部分には50%遮光ネットを2枚重ねて75%程度に遮光率を上げましょう。またこの時期以降日差しが簡易ビニール温室の奥まで差し込むようになるので、直射日光に良い種類を奥に置いている場合、気をつけます。この時期は前面の遮光ネットも必須です。
③ゆるく留めて風通しよく
風通しも大切なので、びっちり張らないで風でゆらゆらするぐらいのゆったり目に留めましょう。シートを上から垂らしていれば、前は2カ所留めれば充分です。
④雨・曇りの日が続く場合
雨や曇りの日は日差しが弱くなっています。たまにならよいですが、1週間雨天や曇りが続く場合は、一時的に遮光ネットを外したり弱めたりします。ただ急な晴れ間などにうっかりかけ忘れると、葉ヤケしたり溶けたりするので、こまめな調節ができない場合はかけっぱなしにします。
⑤ハオルチアなど弱い種類の対応
ハオルチアやガステリアなど特に直射日光に弱い種類は、前面だけでなく、左右の壁にも日よけシートを貼る必要があります。具体的には別のページで解説しますが、多肉植物棚の一カ所をハオルチア・ガステリア専用にして、横からも直射日光が注がないように注意します。
⑥定期的にビニールは貼り替える
補足ですが、簡易ビニール温室のビニールカバーは1~2年に1回は張り直しましょう。カバーは使っているうちに汚れが溜まってきます。すると透明なはずのビニールカバーが遮光ネット代わりになって、気付かないうちに暗すぎる環境になってしまうことがあります。
市販品とおすすめの遮光ネット
クラーク シルバー遮光ネット 60%
参考価格 2m × 6m 1,982円
シルバー色の遮光ネットで、60%遮光効果があります。
管理人がメインに使っている遮光ネットで、庫内の温度が上がりにくく、作りがしっかりしています。カットして使っていますが、カット面を透明ビニールテープでくっつけ、ほとんどほつれずに使えています。高密度ポリエチレンが使われており、使用2年間現在(4~10月に使用)劣化で破れたり切れたりしていません。
シンセイ 寒冷紗 白 1mm目 22%
参考価格 180cm × 10m 2,704円
白の遮光ネット(寒冷紗)で22%遮光効果があります。
管理人が秋に使い始めた遮光ネットで、日差しの弱い時期に使っています。ポリエステル製でカットもしやすいです。耐久性についてはまだ年数が少ないため未検証です。この遮光ネットは1mmの目合い(目の粗さが1mm)で防虫ネットの効果もあります。
【2022.12追記】
2019年に利用し始めて満三年が経ちますが、ほつれや太陽光での劣化などなく、問題なく使い続けています。