多肉植物は挿し木(さし芽)でも増やすことができます。根が出るまでどのぐらいかかるのか、根の出させ方、そもそも挿し木ができない種類、乾かさずに植えるタイプなど、挿し木の実例など、詳しく解説しています。
目次
挿し木(さし芽)とは?
挿し木(さし木)は親株から茎を切り取って土にさし、根を出させて増やす方法のことです。多くの種類で行うことができ、多肉植物では葉から増やす葉挿しと並んで良く行われています。
挿し穂の例
※挿し木とさし芽は同じ意味で、挿し穂とは挿し木用のカットした苗のことです。
メリットとデメリット
挿し木のメリットは徒長した(伸びすぎになった)株のカット苗や、剪定後に余った苗などを使って手軽に多肉植物を増やせることです。
また多肉植物の増やし方に葉挿しがありますが、葉挿しは最低2ヶ月~長いと1年近くの時間がかかります。挿して根が出るのを待つだけなので、ずっと速く増やすことができます。また葉挿しでは増やせない種類も挿し木なら増やせます。そしてカットした親株の枝からは新しい枝が出てくるので一石二鳥です。
もうひとつのメリットに斑入りがそのまま移行できるという点があります。葉挿しだと斑がうまく入らないことがあるのですが、挿し木ならそのままの斑の入り方で育ちます。
しかしデメリットもあります。ただ葉挿しのように一つの親株から大量の苗を作り出すことはできません。挿し木は親株のコピー(無性生殖)なので親株がウイルス病にかかっていると、そのまま伝染してしまいます。
挿し木のざっくりした流れ
さし木をすると、まず初めに切り口が乾燥します。断面がしっかり乾いた頃、切り口か下葉をもいだ部分から白い根が出てきます。そこで土に植えて水やりをすると一気に根がのびて活着します(しっかり根を張ります)。根が水を吸い始めるとカット苗の先端(芽)が成長を始めます。
挿し木ができる種類・できない種類
挿し木は多くの種類で可能ですが、一部できない種類もあります。
できる種類
エケベリア属、グラプトペタルム属、グラプトセダム属、グラプトベリア属、セダム属、アドロミスクス属、オトンナ属、ヒロテレフィウム属、ダドレア属、クラッスラ属、パキフィツム属、パキベリア属、クセロシキオス属、センペルビウム属、オロスタキス属、アエオニウム属、セネシオ属、カランコエ属、コチレドン属、アロエ属、ガステリア属、セロペギア属、ポーチュラカリア属、スタペリア属、フェルニア属、アナカンプセロス属、など広い範囲で挿し木が可能です。
できる種類のごく一例
朧月、月兎耳、黒法師、胡蝶の舞、火祭り、桜吹雪、白牡丹、七宝樹、七福神、玉つづり、虹の玉、星の王子、星美人、グリーンネックレス、銘月、ゴーラムなどなど
さし木は特に茎が長く木立する(立ち上がって茎が上に伸びていく)タイプの多肉植物に向いています。
できない種類
リトープスやコノフィツムなどの玉型メセン類、塊根を太らせたいコーデックス類(パキポディウム、アデニウム、ペラルゴニウムなど)は挿し木ができません。その他アガベは胴切りというタイプになりますし、ハオルチアは株分けがメインとなります。
できない種類の一例
リトープス、アガベ、コノフィツム、ハオルチア、グラキリス、砂漠のバラなどなど
挿し木のできる時期(季節)
挿し木はその種類の成長期に行います。
春秋型は3~5月か9~11月、夏型は4~6月、冬型は9~11月か3~4月頃です。夏型・冬型は真夏や真冬にさし木したほうがうまくいきそうですが、実際には発根が速いのは春秋の温度でいえば15℃~25℃の時期です。
特に春秋型のエケベリアやグラプトペタルム、コチレドンなどは真夏には茎が腐りやすく、冬はいつまで経っても根が出てこないという現象が起きがちなので、先ほどの期間に始めることをおすすめします。
カランコエのような夏型の種類は春秋型より遅くより暖かくなった時期がさし木時で、20℃以上はあったほうがよいです。
アエオニウムのような冬型の種類は、20℃以下の時期で10℃以下にならない辺りがぐんぐん根が伸びます。
用意するもの
- 新品の種まき・さし芽用の土
- 鉢
- スコップ
- 割り箸
- ハサミ
- カッター
- 殺菌剤
大切なポイント
- 元気な株を選ぶ
- 時期を守る
- 清潔な土と道具を使う
- 発根まで水やりしない
- 茎をカットしたら原則乾かす
- 半日陰で管理する
元気な株を選ぶ
元気な株からとった挿し穂を選びましょう。根詰まりなどを起こして力がなくなっている株から取った挿し穂は、根の出方が悪く成功率も低くなってしまいます。
時期を守る
さし木はその多肉植物の生育期に行います。生育期は生育が旺盛で根が出やすく失敗が少ないですが、休眠期は根が出るのが遅かったり腐ってしまったりと、失敗する確率が高くなります。
清潔な土と道具を使う
根や茎をカットする際は切り口から病原菌が入るのを防ぐため、ハサミやピンセットなどを火であぶって殺菌しましょう。また病害虫が発生しないようにするため土は新品のさし芽用土など清潔なもの、雑草の種などが入っていないものを使いましょう。
茎をカットしたら原則乾かす
挿し穂用に茎をカットした場合は、一部例外があるものの基本はすぐ土に挿さないで切り口を乾かします。これは茎の切り口から細菌が入ったり腐ったりするのを避けるためです。
半日陰で管理
さし木の後はしっかり根が出るまで日なたに出したりせず半日陰で管理します。
スポンサーリンク
挿し木の方法
①挿し穂を作る
元気な親株から元気な枝を選び、清潔なハサミで5cm程度の枝を切り取り、下葉をむしります。下葉をむしった所から根がでるパターンが結構多いので、写真のような感じに葉をもぎ取っておきましょう。
②挿し床を準備する
次に挿し床を準備します。病害虫をさけるため新品の種まき・さし芽用土を使いましょう。さし芽用土は細かくバーミキュライトのような無菌の土を使っているものが最適です。鉢も清潔なものを使います。
③A.発根を待つタイプ
エケベリア、グラプトペタルム、カランコエ、クラッスラなど多くの種類では、根が出るまでコップに立てかけたり卵パックに乗せるなどして空中で切り口を乾燥させます。置き場所は半日陰か室内の窓辺でお願いします。
卵パックに乗せると上を向きます
根が出ていないか毎日観察して、根が少し出始めたらすぐに土に植えます。根が長く伸びすぎると土に挿すとき根が折れてしまうので、根の長さは1mm程度確認できれば、もう挿して大丈夫です。
本来はカット苗の切り口を4~5日乾燥させれば、乾いた用土に挿してよいのですが、根が出たか確認するために抜き差ししないといけなくなるので、根が出るまで挿さずに放置するのをおすすめします。
土に植えたら少ない量から水やりを開始します。
③B.乾かさずすぐ植えるタイプ
アエオニウムやセネシオ、セダムなど一部の種類はカット苗(挿し穂)を作ったら、すぐに湿った土に挿します。このとき土は少ししっとりするぐらいがよく、びしょびしょだと腐ることがあります。この加減が最初はやや難しい所です。
アエオニウムやセネシオなどは水気のある土に触れることで根を出すことと、茎が乾燥すると茎がしぼんで根が出ないため、カットしたら乾かさないようにします。こちらも置き場所は半日陰か室内の窓辺でお願いします。
④その後の管理方法
AタイプもBタイプも、根が充分に張ったら通常の水やりにします。根が充分に張ったかどうかは、茎をつまんでそっと上に持ち上げて抵抗を感じる、先端が成長し新葉がみずみずしくなってくるなどで根が張っていると判断します。
またここまではずっと半日陰や室内の窓辺で管理していましたが、初めての水やりから2週間程度は明るい日陰で管理し、だんだんと外の日差しに慣らし、親株が置いてあった元の環境に近づけていきます。
また枝を切り取った親株の切り口付近からも、種類により1~2ヶ月程度で新しい芽が出てきます。親株から新芽が吹くのには意外と時間がかかります。そのため枯れてしまったと思ってすぐ処分してしまうのはもったいないと思います。
挿し木の例
例1(エケベリア・待つ)
例2(アエオニウム・すぐ)
失敗しやすい種類のコツ
ユーフォルビア
ユーフォルビアはカットした断面から白い乳液が出ます。この液は発根を阻害してしまうので、カットしたらすぐに水につけて30分ほど経って水から取り出し、断面をティッシュで拭いてから挿し木します。
グリーンネックレス系
グリーンネックレスはカット面からではなく、付近の節から根が出てくる特徴があります。そのため、土をトレイなどに敷いてその上にカット苗を置き、若干土をかぶせておきます。1ヶ月ほどで発根するので、正式に鉢植えします。
Q&A
根が出るまでの期間は?
挿し木に向いている種類があり、発根までにかかる時間や難易度も属によっても異なります。また同じ属でも早い種類と遅い種類があるので早いもの~遅いもので記載しています。
属 | 日数 | 難易度 |
---|---|---|
グラプトペタルム | 1~2週間 | 簡単 |
セダム(軟葉系) | 3日~1週間 | 簡単 |
セダム(硬葉系) | 2週間~1ヶ月 | 簡単 |
カランコエ | 2週間~1ヶ月 | 簡単 |
エケベリア | 2週間程度 | 簡単 |
セネシオ | 2週間~1ヶ月 | やや難しい |
アエオニウム | 3週間程度 | やや難しい |
クラッスラの一部 | 2週間~1ヶ月 | やや簡単 |
コチレドン | 2週間~1ヶ月 | やや難しい |
パキフィツム | 2週間~1ヶ月 | 簡単 |
どれぐらい根が出たら植える?
根が出たということはたとえ1mmであっても、茎の中で根が出る準備が整ったことを意味しています。そのため1mmでも植えて良いと思います。ただあまり長く伸びすぎると、土に挿すときボキボキと折れてしまうので、長くても1cm程度以内に植えた方が良いと思います。ここまで出ていれば、多めに水をやっても腐ることはほぼありません。
根はどこから出るのか
実は根が出る場所というのは意外と奥が深いのですが、
- 種類によってカットした切り口から出るもの
- 下葉をもいだ「もぎ口」から出るもの
- 茎のあちこちから出てくるもの
があります。
左からグリーンネックレス(節から出ている)、アロマティカス(カット面から出ている)、星美人(葉をもぎとった後から出ている)
出方も色々で
- 複数本の根が出るもの
- 1~2本太い根が出るもの
- まっすぐの根、曲がった根、分岐した根
など様々あります。
そのため、切り口にルートン(発根促進剤)を塗っても意味がないものがあります。またカットした切り口から根が出るものも多いのでロウなどで固めてしまうと根が出なくなってしまいます。
しかしどこから根が出るかまでは書籍などにも載っておらず自分で実験しないと分からないものです。そのため管理人は切り口には何もせずそのまま待つようにしています。
初めから土に植えてもよい?
アエオニウムなどは初めから湿った土に挿して育てます。エケベリアやグラプトペタルムなど多くの種類はカット苗を作ってすぐに濡れた土に挿すのは危険です。それは茎の発根の準備が整っていないためで、挿した部位から腐敗菌が入り茎が腐ってくることが多いです。
一方エケベリアなどでも完全に乾いたサラサラの土であれば、カットしてすぐ挿しても問題ありません。(ですが水をやるタイミングをみるために時々抜いて確認しないといけないので、最初から土に挿す意味はあまりないと感じます。)
湿った土に挿したら腐らない?
アエオニウムやセネシオなどは湿った土に挿さないとすぐに発根してくれません。ただびしょびしょの土では切り口から土の中にいる腐敗菌が入ることがあるので、少し湿った程度の土がよいです。
挿し木後いつから水やりする?
種類により異なりますが、根が出るまで待ちます。期間にすると概ね1~4週間後です。またこれは時期にもより、寒い時期・暑い時期は発根が遅く、春・秋の穏やかな気温(15~25℃程度)では最短で根が出てきます。
根が出ない原因
時期が不適切だった、下葉を落として置かなかったなどが考えられます。まず時期については冬や夏は根が出るのが遅くなるのが普通です。また下葉をもいだ口から根が出てくるものも多く、そのような種類は下葉をもぎとって置かないと根が出にくいです。
葉がシワシワするのはいい?
茎がシナシナになると困りますが、葉に多少しわがよるくらいなら心配はいりません。挿し木作業の終わり頃(根が出る直前)は体内の水分を使い果たして葉にもしわがよってきますが、根が出て水を与えればすぐに復活するので、それほど心配する必要はありません。
葉や茎が腐ってきた
水やりが早すぎた、道具や土に雑菌がついていた、気温の高い時期に挿し木してしまった、などの原因が考えられます。
挿し木は暑い季節は失敗しやすく、冷涼~穏やかな気候のほうがうまくいくことが多いです。またカット苗は根が出るまで水は不要で、根が出ないと水が吸えないため急いで水やりしないようにしましょう。
向いている土の種類は
挿し木の最初は根の量も少なく根張りも弱いため、大きくゴロゴロした土より細かめの土のほうがうまくいきます。市販のさし芽用土や、普通の多肉植物の土しかない場合でもふるいで細かくすれば、使うことができます。
市販でおすすめなのは、花ごころの「さぼてん・多肉植物の土」や同社の「さし芽の土」です。
もちろん赤玉土や日向土、鹿沼土などでもOKですが、その場合は3~5mm程度の振るいで細かく揃えて使うようにしてください。
失敗しないためのコツまとめ
- さし木はそれぞれの適期(季節)に行うと根の伸びもよく速い
- 挿し穂をすぐ湿った土に挿すタイプと、空中で乾かすタイプがある
- 根は少しでも生えていたら水やりをしてもよい時期になっている
- 挿し木中は日なたに出さず、半日陰や明るい窓辺などに置く
多肉植物は普通の植物と異なり、折れてしまった茎でも端切れの苗でも、簡単に新しい株として増やすことができます。管理人もたくさんの多肉植物を挿し木してきましたが、根が出ているのをみる瞬間やしっかり根付いて元気に成長していくのをみるのはとても楽しいです。
皆さんもぜひ、好きな多肉植物を挿し木にして増やしてみてください。