冬越しとは
冬越しとは寒さに弱い多肉植物を枯らさずに越冬させる対策ことをいいます。多肉植物の多くは日本原産ではなく、南アフリカや北米など比較的暖かい地域で自生しています。そのため日本の冬の寒さには弱く、何らかの対策をしないと寒さで枯れてしまうことがあります。
もともと多肉植物の栽培は夏越しより冬越しのほうに重きを置かれていました。しかし最近では異常気象で暖かい地域に大寒波が襲ってきたり、寒冷地で暖かい日があったり、夏には東北でも夏越し対策が必要になったりと一様ではなくなってきています。
多肉植物は冬型や夏型がありますが冬型にも寒さ対策は必要なのでしょうか?
冬型にも寒さ対策は必要
冬型は冬を中心に秋から春にかけて成長するグループをいいます。
ここで考えてしまいがちなのが冬型は寒さに強いから冬が来ても大丈夫だと思ってしまうことです。
冬型は「多肉植物の中では比較的冷涼な気候でよく生育する」という意味で「寒さに強い」という意味ではありません。冬型の多肉植物は5~20℃程度で最も生育するので、それ以下になると生育も悪くなります。
0℃以下になれば多くのグループは枯れてしまうか株がダメージを受けてしまいます。そのため冬型の種類も3℃を切るとだいたい防寒対策が必要になります。むしろ冬が生育期なので低すぎない低温(5~15℃程度)を保って生育しやすい環境を作った方が、良く生長します。
しかし温めすぎは問題です。早く大きくさせたいと思って暖房の効いた暖かい所に置いていると、休眠せず成長を続けますが、室内の日光不足のため「徒長」を起こしてしまうためです。
多肉植物の冬の状態
まず夏型と春秋型の多肉植物は寒さのため休眠期を迎え、生育を停止しています。冬型の多肉植物は5℃~20℃でよく生育しますが、寒すぎると(5℃以下になると)生育を鈍らせます。
生育を停止したものは根から水を吸収しなくなり、水やりしてしまうといつまでも土が乾きません。生育を鈍らせているものは少量の水は吸収しますが、たくさん与えすぎると土が乾かなくなります。
多肉植物の中には休眠期に花を咲かせる種類があります。(カランコエ、エケベリア、グラプトペタルムなど)このような種類は水やりが要るのではないかと心配になりますが、体内にもっている水分を使って開花するので、やはり水やりはしないでおきます。
種類ごとの耐寒性
多肉植物はおおむね寒さに弱いものが多いですが、一部はマイナスにも耐えられるものがあります。
- センペルビブム(センペルビウム)-5℃
- オロスタキス -5℃
- ロスラリア -5℃
- エケベリア、グラプトペタルム、セダムの一部、コチレドン、アドロミスクス、、リトープス、ブラウンシア、オスクラリア、プレイオスピロス、オトンナ、クラッスラ、ダドレア、ハオルシアの一部、アガベの一部、サボテン科の一部
- カランコエ、セロペキア、アロエ、ガステリア、アエオニウム、ポーチュラカリア、アナカンプセロス、ハオルシアの一部、セネシオ、パキフィツム、コノフィツム、アガベの一部、フェネストラリア、フォーカリア、チランジア(エアプランツ)の一部 5℃、サボテン科の一部
- スタペリア 8℃
- フェルニア 5℃
- サボテン科の一部 5℃
- ユーフォルビア 5℃
- パキポディウム 5℃
- オトンナ(コーデックス) 5℃
- ペラルゴニウム 5℃
- チレコドン 5℃
- アデニウム 8℃
- チランジア(エアプランツ)の一部 6~10℃
詳しくは種類別の耐寒性ページを参照ください。
この表のとおり、センペルビブム、オロスタキス、ロスラリアで-5℃以上となっていてこの3つ以外のほとんどのグループは寒さ対策が必要になります。
暖地と寒冷地
多肉植物を育てる場合、おおむね関東以南か関東以北に分けて考えます。まず寒さの厳しい地域「寒冷地」は北海道、東北、信越地方を指します。
「暖地」は九州や関西以南の雪があまり降らない地域、中間が関東地域です。寒冷地では日中最高気温が5℃以下になってしまうので、温室管理が必須です。寒冷地以外では、大寒波が来たり雪が降る日にだけ室内に取り込むことですむことが多いです。
寒冷地では、冬に5℃を下回り始めたら温室か室内への取り込みを始めます。寒さ対策が必要な時期は北海道を例にすると10月下旬~4月中旬になります。
冬の置き場所は
- 暖房設備のある温室
- 室内への取り込み
が考えられます。
室内へ取り込む
室内では暖房を強くかけていない部屋で日が差すところがベストです。もし日の当たる所に置けない、そもそも窓がない部屋などの場合は、植物育成ライトを使うことで日光不足を解消できます。
植物育成ライトを使わない場合、日中は窓辺に置いたほうがよいですが、真夜中の窓辺は思いのほか寒くなるので、分厚いカーテンをひいたり段ボール箱をかぶせたり、部屋の真ん中に移動させたりなど工夫が必要です。
室内では風通しに気をつけてカビや病気の発生を抑えましょう。乾燥した空気でハダニが発生しやすい点も気をつけたほうがよいですね。
暖房設備のある温室
冷暖房が効いている温室を用意できる場合は、昼間の温度の上がりすぎに気をつけ、暖かい時間に風通しをよくします。暖房方法は、火を焚くもの、電熱を使うもの、床の保温マットを使うものなどがあり、それぞれメリット・デメリットがあります。
どちらにしても5℃程度を維持できればよく、暖かい季節のような高温を保つ必要はありません。
簡易ビニール温室は難しい
フレームや簡易ビニール温室もないよりはマシで、寒風や雪などから守ってくれますが、保温効果はほとんどないのでマイナスを簡単に下回る寒冷地では、夜の寒さから守ることが難しいです。
具体的な月ごとの置き場所はこちらに掲載しています。
寒冷地(宮城)での気温と多肉植物の冬越し(置き場所)
北海道の気温と冬の置き場所
室内でも温度が低い場合
北海道を初め東北地方やその他の寒冷地では、室内に入れるだけでは温度が足りず、5℃以下場合によっては0℃も保てない場合があります。
そのような地域では暖房を入れることが考えられますが、夜中多肉植物のためにずっと暖房をつけている訳にはいかない場合もあると思います。
そのような場合に使えるのが、育苗ヒーターマットです。植物用のヒーターマットはヒト用やペット用のホットカーペットのようなもので、ビニール製で中に電熱線が入っており鉢を温めることができます。
これを敷いて場合によっては更に段ボール箱をかぶせるなどして保温すれば、暖房を付けっぱなしにしなくても多肉植物を寒さから守ることができます。加温力は室温プラス10℃程度で、消費電力は1枚20W程度、本体価格は1枚2,000円程度です。
詳細については以下のページで解説しています。
暖地や関東以南の関西、西日本の平野部では、ほとんど一冬に数回雪が降るか降らないかでマイナスには滅多になりません。そのような場所ではマイナスになりそうな日や寒波が予想され去るときにだけ室内に一時的に取り込むくらいで済むことが多いです。
寒さが心配な時期も寒冷地より短く、11月下旬から3月初旬までです。
冬の置き場所は
- 簡易ビニール温室
- 室内への取り込み
が考えられます。
下がっても0℃程度の地域では、簡易ビニール温室がある程度有効です。簡易ビニール温室は保温効果はほとんどありませんが、寒風や冷たい雨、雪などを防ぐことはできるので、多肉植物の傷みをかなり減らせます。風が強い日や雪の降る日などは、前面のビニールを閉めておきましょう。
また暖地でもマイナスになる地域があります。このような場合は、室内へ取り込む必要があります。寒い夜、うっかり凍らせて枯らしてしまうこともありますので、天気予報は毎日チェックしておいたほうがよいですね。温度計は必ず設置しておきましょう。できれば最低・最高気温を観測できる温度計が便利です。
暖地でも室内に入れないといけない種類もあります。それはカランコエのように寒さに弱いベンケイソウ科の種類や、アデニウム、パキポディウム、ペラルゴニウム、オトンナなどの冬型・夏型コーデックス、一部のサボテンです。
このような種類は5℃以下になる12~2月のおよそ3ヶ月間は室内に入れる必要があります。
具体的な月ごとの置き場所はこちらに掲載しています。
暖地(福岡)での気温と多肉植物の冬越し(置き場所)
関西(大阪)での気温と多肉植物の冬越し(置き場所)
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外で管理する
- 霜に当てない
- 凍結させない
- 水やりを極力減らす
- プチプチや不織布シートで覆う
- 簡易ビニール温室に入れる
センペルビウムやオロスタキスなど一部を除いて霜に当てない、凍結させない、寒風に当てないことが大切です。これは外で育てる場合の基本です。
エケベリアやグラプトペタルムなど耐寒性が中~弱いグループは夜に凍結させてしまったり、霜に当てたりすると腐って枯れがちになります。
寒さで紅葉する種類も多いのでやたらと暖かい室内に入れたくはない場合、なるべくぎりぎりまで外で栽培したい場合はどうしたらよいでしょうか?
実は水やりを極力減らし植物体内の水分が減るようにすると耐寒性が上がります。秋の終わりから水やりを減らせば通常の越冬最低気温より低くても枯れずに済むことがよくあります。逆に水をたくさんやっている状態で寒くなると凍りやすいです。水やりの量が耐寒性に強く相関するため夏型のグループはもちろんのこと、リトープスのような冬型の多肉植物も、水やりのしすぎには十分注意しましょう。
またセンペルビウム属など耐寒性が強い植物は暖かいところに取り込むと、逆に腐ったり徒長したりするため充分寒さに当てるようにします。
梱包材であるプチプチ(エアキャップ)や不織布シートで覆うことはある程度、寒さ対策になります。プチプチでくるんだり、不織布シートをべたがけしたり覆ったりすることで、寒風が直接あたるのを避ける、雪よけになる、地表近くの場合は地面の保温効果を保てる、といった効果が期待できます。
簡易ビニール温室はそれ自体に暖房機能はないので、発熱効果はありません。しかし多肉植物をそのまま地面に出しておくよりずっと被害は抑えられます。まず寒風が当たるのを防ぐ効果があり、雪や冷たい雨がかかるのを防ぐことができます。ただ保温効果はほとんど期待できないので、マイナス1℃以下になる地域では、やはりそれ以上の対策が必要です。
室内や温室で管理する
- とにかく日に当てる
- 風通しをよくする
- 水やりを控える
- 暖房を控えめに(乾燥と暖かさ)
- ビニール温室の効果
- 温度・湿度の計測を
- できれば型ごとにわける
室内は日照不足になりがちで、一番のポイントは日に当てることです。多肉植物を室内で育てる場合、一日最低4時間以上日が当たるところでないと長期(数ヶ月)の栽培は難しいです。日が当たらないと徒長したり葉の色が悪くなったりするため、できれば暖かい日は外に出して日に当てましょう。
室内は外より風通しが悪く、夏より腐りにくい時期ながらも根腐れを起こす心配があります。メセン類の実生(種まき)などはたった一日でカビさせたり溶けて全滅させてしまうこともあるため、暖かい日は窓を少し開けて風が通るようにしましょう。暖房のあるビニール温室でも閉め切っていると風が滞るので時々空気の入れ換えをするようにします。
外に置く場合と同じく、室内も冬場はできるだけ水やりを減らすようにします。室内で暖かく水やりを多くすると茎だけひょろ長くなる徒長が起こりやすくなります。冬型のグループはそれほど水やりを減らさなくて良いですが、夏型は休眠中なので断水ぎみにするのが安全です。
多肉植物にとって冬の気温は8~20℃程度に保つのがのぞましいです。やむを得ず室内に入れる場合も、多肉植物を置く部屋は強い暖房をかけるのは避けましょう。室温が高すぎになってしまう上に、乾燥が強い冬に暖房をかけると乾燥がもっとひどくなり、ハダニが湧いたり葉の水分が減ってチリチリになってしまうことが恐れがあります。どうしても暖房をつけた部屋に置く場合は、直接エアコンの風が当たらないところに置くか、加湿器で湿度を調節するか、種類により葉水(葉に霧吹きで水を与える)を心がけるようにしましょう。
暖房設備のない簡易のビニール温室は昼間は外気以上に温度が上がりますが、夜は外気とほとんど同じに冷え込んでしまいます。そのため本格的に寒い寒冷地では効果が期待できません。ただ寒風を防ぐ効果はありますのでそのまま外に置くよりはいれて置いたほうがよいですね。またビニール温室はサイズが小さいものほど温度変化が激しくなるので、小型の簡易ビニール温室を使う場合は昼間の温度の上がりすぎに注意しましょう。
戸外、室内、温室のどこで育てる場合も、温度計と湿度計は設置しておきましょう。体感温度ではなく温度計で測ることが大切です。室内に置く場合は湿度が低くなりがちなので湿度計も設置したほうがよいですね。
もし冷暖房付きの温室が使えるのであれば、春秋型、冬型、夏型を別々の温室に入れて管理したいものですね。ですがそのようなことは農家の方や栽培家の方にしかできません。我々個人の栽培では、冷暖房設備のない簡易ビニール温室を区分けして使う、グループ(属)ごとにかごを分けてまとめておき、室内に取り込みやすいようにするなどの工夫をしていくしかないと思います。
暗い部屋しかない場合の対処
窓辺に多肉植物を置くスペースがない場合は、冬は多肉植物を育てられないのでしょうか?
実は良い方法があります。それはLEDなどの植物育成ライトを使う方法です。植物育成ライトは太陽光の替わりをしてくれる強力な電灯のことで、暗い部屋でも直射日光が当たったような効果を得ることができます。
室内を5℃以上に保てていれば、後必要なのは日差しだけなので、この方法なら誰でも現実的に、暖地でも寒冷地の冬でも多肉植物を長期間栽培することができます。
デメリットは電気代が若干かかるということでしょうか。LEDですので基本的には消費電力は低いです。家庭用では最大のものでも100Wを超えず、1台につきおよそ60W程度使うと考えると白熱球なら1個分、蛍光灯なら2台分程度の電気代がかかります。ただ、戸外に暖房設備のある温室を持つ方が燃費は大きくなるので、それほどデメリットにはならないと思います。
管理人も寒さ対策として室内に取り込む方法を行っていますが、人工的に光を補うことで、窓のない部屋に多肉植物を置けるのでとても便利で、また健康に栽培できています。
植物育成ライトを使った室内長期栽培の詳細は以下のページで解説しています。
ちなみに植物育成ライトは、夏場の暑さよけとして室内に多肉植物を取り込む時の光不足対策にも使えます。管理人は2022年夏、4ヶ月間(5/1~9/5まで)室内で一度も日に当てずにリトープスを栽培しました。徒長もせず、健康的に育ち無事秋を迎えました。