2023年4月、オペルクリカリア パキプスの種子を手に入れる機会があったので実生してみました。実践環境や必要なものなどについても詳しく紹介しています。
目次
パキプスの実生について
オペルクリカリア パキプスの種子
言うまでもなく、オペルクリカリア パキプスは塊根植物(コーデックス)の王様とも呼ばれる種類です。大きくなった株は非常に希少価値が高く、価格も非常に高価です。そこで実生となるわけですが、この種子さえも手に入りにくいのが現状です。
今回の種子はヤフーショッピングの多肉植物ワールドの商品ページを見ていたところたまたま在庫があるのを発見、即購入しました。
多肉植物ワールド(ヤフーショッピング)
問題はそれだけではありません。発芽率が非常に低くネットには10%とも書かれており、さらに発芽させるのが難しい硬実種子です。今回は7粒を入手しましたが、10%では一つも発芽しない可能性があります。
それでもパキプスを蒔いた環境や土の配合、温度管理など書き残しておきたくこのページを作成させていただきました。
以下に掲載することは全てコーデックス素人の個人的な実生記録ですので、あくまで参考程度にとどめていただければ幸いです。
今回の実践環境
まき時とヒーターマットについて
今回は少し特殊な環境で実生しています。
本来夏型コーデックスのまき時は気温が25~30℃になるもっと暑い季節です。関東以南では5月中旬から6月にかけてになると思います。しかし今回は4月初めというかなり早い時期に蒔くことにしました。ただし植物用サーモスタット付きヒーターマットを使って温度を人工的に上げて行います。
なぜヒーターマットを使って4月に蒔きたかったかというと、気温の上昇を待っていると夏近くまで待たなければならず、秋冬の休眠期になる前に大きくできないこと、温度をしっかり管理する、日当たり(育成ライト)をしっかり確保するなど発芽条件を整えたかったためです。
前年管理人はパキポディウムのグラキリスを6月14日というかなり遅い時期に蒔いて、冬になるまでにしっかり成長させられず、体力が尽きて枯れさせてしまったこと、昼夜の温度差が激しく一気に発芽させられなかったことなどから実生に失敗しました。
そこでそのような要因を取り除いて、成功率を上げたかったのでした。
※育苗ヒーターマットは鉢の下に敷いて鉢や土を温める機器です。またサーモスタット機能付きヒーターマットとは、温度設定機能があり昼夜一定温度を保つことができるヒーターマットのことです。(下記参照)
※植物育成ライトは機能は単純で太陽光の代わりに光を補うことができる機器です。(下記参照)
硬実種子の処理について
パキプスの種子は通常のタネより硬い殻で覆われているため発芽しづらい種類で、塩素系漂白剤に浸ける(化学的処理)、殻に傷を付けてから蒔く、など硬実種子のための前処理が必要だといわれています。
しかし今回は前処理は一切行いませんでした。
それは化学的処理ではタネを傷めてしまうのではないかということ、カッターなどで殻に傷を付けると中まで切ってしまうのではないかという点からでした。
まずは何もせずに蒔いてみて、だめなら掘り上げて何らかの硬実種子処理をしてみようと考えました。
土の配合について
今回の土の配合は、至って簡単なものにしました。といっても手抜きではなく、色々な種子を蒔いてみてこれがよいのではないかという土が見つかったためです。
土は市販の花ごころ「さし芽・種まきの土」と「さぼてん・多肉植物の土」を振るいに掛けたあと同量を混ぜるというものです。
これまでは赤玉土やピートモス、パーライトなどを毎回別な配合で変えて蒔いていたのですが、水をやったとき土が浮く、鉢底からすぐ抜け出て染みこまない、藻が大量に発生する、根が張りにくい、水はけが悪いなどさまざまな問題点がありました。
今回は鉢の高さを3等分して中~上にさし芽・種まきの土とさぼてん・多肉植物の土をそれぞれ3mmのふるいに掛けて同量を混ぜたものをいれます。下3分の1については、さきほど振るいに掛けて残ったさぼてん・多肉植物の土を5mmのふるいにかけたものを入れます。
この配合だと藻が発生しにくい、土に水が染みこみ適度に保水性と排水性がある、細かいので根が張りやすい、また水分を多く含んでいるためタネに水が染みこみやすく硬い種子にもしっかり水が浸透する、などのメリットがあります。
もちろんもっとよい配合をもっている方はそちらでもよいですし、市販の土では別メーカーのものを使ってもOKです。
土やタネの消毒について
今回土は熱湯消毒・殺菌剤消毒し、タネは殺菌剤消毒のみ行いました。
まず土はプレステラ90の鉢に入れて熱湯を充分にかけます。鉢底から流れ出したら終了です。その後土の表面にたっぷりオーソサイドスプレーを吹きかけました。
またタネはタネだけを直接殺菌するのではなく、殺菌した土に蒔いて上からオーソサイドスプレーをする、という方法で行いました。
暑い時期に殺菌剤に浸けていると皮が剥けてくることがあるので、直接殺菌剤に浸すのはやめにしました。
蒔く環境のセッティング
今回種まきの環境は以下の通りに行いました。
- 腰水容器はミネラルウォーター2Lのペットボトルを加工したものを使用
- タネをまく鉢はプレステラ90を使用
- 播種は室内で植物育成ライト(GREENSINDOOR 600W)を使用
- 育成ライトは50cm程度離し1万ルクスほどに調節
- ヒーターマットはHyindoor製のサーモスタット機能付きを使用
- ヒーターマットの温度はレベル3(約30℃)に設定
- 腰水は2cm程度
※これはあくまで一例ですので、参考程度にお願いします。
今回必要だったもの
サーモスタット付きヒーターマット
4月のまだ寒い時期に実生するにはヒーターマットが必須になります。
またできれば一定温度が保てるサーモスタット機能付きがベストです。今回は「Hyindoor製サーモスタット機能付きヒーターマット 30W」という製品を使用しました。20℃から40℃まで5℃刻みに設定することができ、今回のパキプスでは30℃(レベル3)に設定しました。
※必ずこれが必要というわけではなく、30℃程度が安定的に保てるのであればどのヒーターマットでも構いません。
植物を入れているカゴや鉢などの下に敷いて植物を寒さから守ったり、実生のための温度を保つ、コーデックスの発根管理、などのためのアイテムです。温度調節機能付き(サーモスタット機能付き)のものは温度(約20~40℃程度)を設定することで昼夜一定温度で加温することができます。サーモスタット機能なしの単に電源を差し込んで定格電力で温める通常のタイプもあります。これは室温プラス10℃程度の加温効果があり、室温の変化に応じてマットの温度も変わります。
植物育成ライト
室内で実生するのには日光不足となり、植物育成ライトが必須になります。
今回は「GREENSINDOOR 600W相当」というLEDを使いました。今回は鉢をライトから50cmほど離しまんべんなく1万ルクス程度の光を照射するようにしました。
※必ずこれが必要というわけではなく、ある程度強い光(目安として6,000ルクス以上)が当てられればどの植物育成ライトでも構いません。
植物の光合成に必要な光の波長を当て日光不足を解消するための機器です。植物育成ライトがあれば、窓のない部屋や窓辺でない暗い所でも、多肉植物を健康に育てることができます。ライトは色々な種類がありますが、家庭用のものではLEDが多く光の強さが調節できるのもの、タイマーがあるもの、形状では電気スタンド型のものやパネル状のものなどがあります。
市販の土(2種類)
今回は花ごころの通常多肉用土とさし芽用の2種を準備しました。
花ごころの市販用土で軽石・バーミキュライト・ゼオライトなどが入っている土で、肥料が入っていない土です。水はけと根腐れ防止に重点を置いています。粒サイズにばらつきがありますが、ふるいにかけることで均一化できます。
花ごころの市販用土で、バーミキュライト・パーライト・ピートモス・鹿沼土でできており、肥料が入っていないものです。やわらかくフカフカしており適度な保水性を持ち、目が細かいことから種まきに適しています。
レビュー
Amazon(さし芽・種まきの土)
Amazon(さぼてん・多肉植物の土)
※必ずこれが必要というわけではなく、ご自身の配合土があればそれでも大丈夫です。
オーソサイド(殺菌剤)
800倍液をスプレー容器に入れて土とタネにしっかり吹きかけました。
殺菌剤はタネのカビや発芽した苗の立ち枯れ病などを防ぐための農薬のことです。タネにかけることでタネを消毒できるほか、土にかけてカビを防止する効果があります。よく使われる殺菌剤としてベンレートが挙げられますが、こちらも同じ殺菌剤の一つです。しかしオーソサイドは観葉植物に適用があることと(ベンレートは適用なし)、藻の発生抑制に効果があるのでできればオーソサイドをおすすめします。
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実践記録
作業の流れ
水2Lペットボトルは横に倒して使い、中にプレステラ90を3つ並べて完全に蓋で密閉できるようにします。そのため横を蓋と腰水容器に分けるようにハサミで切り分けます。
土は花ごころ「さぼてん・多肉植物の土」と「さし芽・種まきの土」をそれぞれ3mmでふるい、およそ同量を混ぜ合わせます。ややさぼてん・多肉植物の土を多めにしました。(中間~上部の土)
混ぜ合わせた土です
ふるいの中に残った土は5mmのふるいでふるっておきます。(底用の土)
以下のように下3分の1に底用の土を入れ、中間~上までの3分の2に中間~上部の土をいれます。土はウォータースペースを1cmほど取りますが、できるだけ上の方までいっぱいに入れます。
種子の名前と蒔いた日を書いたプラスチックラベルを用意し土に差します。
土にはグラグラ煮立てたお湯をたっぷり注ぎ、その上からオーソサイド800倍スプレーをかけます。そして腰水を2cm程度張ります。
タネを蒔きオーソサイドスプレーを吹きかけます。このときタネは土に乗せるのではなく、土の中にやや押しつけるようにして蒔きました。
4/6訂正
パキプスは嫌光性の種子だそうで、覆土が必要とのことです。写真ではタネが露出していますが、4/6に覆土しました。
ヒーターマットを敷いてレベル3(30℃)に設定、加温を開始します。
植物育成ライト(GREENSINDOORの600W版)を50cmほど離してつり下げ、タネを蒔いた辺りがちょうど1万ルクス程度になるように距離を調節します。これは自然光に合わせて毎朝9時頃オンにして17時頃オフにします。
1ヶ月目(2023.4)
2023/4/2
タネを7粒蒔きました。
30℃で加温を開始します。最初はこまめに温度を測り安定しているのを確認します。書き忘れましたが、ペットボトルには温度計の針が入れられる小さな穴を空けておいてください。いちいち蓋を開けていると温度や湿度が低下してしまいます。また同様の理由で観察は一日につき朝夕1回ずつとします。
2023/4/6
パキプスは嫌光性種子と情報を知り慌てて覆土しました。
2023/4/10
本日よりヒーターマットの温度を35℃にしました。この設定では土の温度は30℃程度になります。
2023/4/12
本日よりヒーターマットの温度を40℃にしました。土の温度は35℃いかないぐらいです。
2023/4/13
全く発芽してこないので、慎重に1つのタネを掘り返してみました。タネはやや膨らんでいるようですが(水を吸っているようですが)カチカチで発芽の兆候はみられません。既に11日が経過しておりやや焦り始めています。
2023/4/17
いよいよ一度掘り起こすことにしました。掘り起こしてみるとなんと白いかびが生えています。そこで表皮は果肉が残っていたということが分かり、水できれいに洗い流した所、本当の硬い殻が出現しました。
どれぐらいの殻の厚みがあるのか調べるため、1個をハサミで慎重に切りましたがなかなか中身が出てこず、最後に覚悟してハサミで二つに分割しました。
中はベージュ色で油が少しあり、やや水気があるような感じでした。
感じとしては梅干しのような構造です。周りに果肉がついており、梅干しの種のような硬さとざらつきがあります。
そこで梅はどう発芽させるのかを調べればオペルクリカリアも発芽方法が分かると思って調べました。
結果、梅は自然のままだと土に埋まって数年経って芽が出るとのことです。強制的に芽を出させたい場合はペンチでややつぶし気味にして植えるとのことです。
しかしパキプスは梅に比べるとタネが小さく、ペンチで割ると中身まで砕けてしまう可能性が高いため、強制的に高速で芽を出させるのは諦めることにしました。
そこできれいに果肉を洗い流したあと、再度土の深さ1cm程度の所に植え直しました。芽が出るのはいつか分かりません。
今後も水を供給し続け発芽を待ちます。もし発芽したら、こちらのページで報告させていただきます。
ということで一度オペルクリカリアの実生記録は停止します。
3ヶ月目(2023.6)
植えた後ずっとそのまま管理していましたが、反応がないので2023/5/29に種子を土から取り出して、今度は水を張った容器に直接浸け込み始めました。30℃程度のヒーターマットの上に乗せているので水温は常時30℃程度あると思います。
ぬるぬるしてきてしまうので、毎日種子を洗っています。水に浸けっぱなしでも種子はカッチカチで反応がありません。
しかし種子から少し気泡のようなものが時たま出てくるので、水を吸収し始めた可能性があります。もしかしたら、中身が変化して芽が出るかもしれません。
期待しながら待ってみたいと思います。
2023/6/4
種子がぬるぬるし次第にカビのようなもので覆われてしまいました。こうなるともう中の種は腐っていると思われます。そこで残念ですが、ここでオペルクリカリアの実生は終了させていただきます。
こちらのページをみてくださっている方には、大変申し訳ありません。